不動産売却は、通常その物件の所有者本人が売却手続きを行って成立させるものです。
しかし、時には物件所有者が委任状を作成し、選ばれた代理人が手続きを進めることもあります。
今回は、委任状による不動産売却のポイントや注意点などについて、詳しく解説したいと思います。
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委任状の概要
委任状とは、売主が不動産売却の手続きを第三者に委任する際に必要な文書をいいます。
主に以下の内容で構成されています。
- 日付
- 委任者の住所、氏名、押印
- 受任者の住所、氏名
- 受任者を代理人と定める旨
- 該当する不動産の売買契約の権限
- 所有権移転登記の権限
- 売買代金受領の権限
- 該当する不動産の概要 など
委任状によって不動産売却を行うケースとして一般的なのは、不動産の所有者本人が外国に滞在している場合、病気やケガなどで入院している場合などが挙げられます。
ちなみに、所有権の移転については、司法書士宛の委任状が別途必要になります。
委任状による不動産売却のポイント5選
委任状を作成し、不動産売却を行う場合は、以下のポイントを必ず押さえておきましょう。
- 委任内容を明確にする
- 実印で押印する
- 捨印を押さない
- “一切の件という表現をしない
- 住所を必ず記載する
委任内容を明確にする
先ほど、委任状に記載される主な内容をいくつか挙げましたが、実際はより細かく委任内容を記載し、代理人に判断の余地を与えないことが大切です。
つまり、代理人を迷わせることなく、記載されていることしかできないような内容にしなければいけないということです。
例えば、委任状に“売買契約書の通り”という記載をしていたとしましょう。
このような場合、もし売買契約書の内容が書き換えられてしまったら、すべての内容が置き換わってしまいます。
よって、不動産売却を委任する売主は、多少面倒であっても、売買契約書に記載してある売買価格、手付金額、引き渡し予定日といった項目については、すべて正確に転記しなければいけません。
そうすることで、代理人は売主が内容を把握している売買契約書の内容でのみ、契約手続きを進めることになります。
実印で押印する
委任状には、売却を委任する売主の押印が必要ですが、こちらには実印を使用しましょう。
こちらは、買主に良いイメージを与えることが主な理由です。
実際、売主の押印に関しては、認印を使用しても問題ありません。
しかし、そのような簡易な印鑑だと、「本当にこの人は代理人なのか」といった不安を買主に抱かせてしまいます。
よって、押印は実印で行い、より信頼してもらうために、売主の印鑑証明書と住民票も添付しておきましょう。
捨印を押さない
捨印とは、あらかじめ文書の余白部分にハンコを押しておき、誤りが見つかったときに訂正印として利用できるものをいいます。
本来、文書に誤りがあった場合、本人が訂正印を押して修正しますが、本人の手元を離れて相手のもとに移ってしまうと、訂正をするのが困難になることもあります。
そのような場合を見越して、誤りがあっても相手方で訂正してもらえるよう、前もって押しておくのが捨印だということです。
しかし、不動産売却の委任状においては、こちらは使用してはいけません。
なぜなら、捨印を押してしまうと、委任状の委任事項に新たな内容を追加することができるからです。
つまり、代理人が契約の場で大きな変更をすることも可能になるということです。
“一切の件”という表現を使用しない
委任状の最後には、“その他○○に関する一切の件”という記載が用いられることがありますが、不動産売却の委任状でこちらの表現を使用してはいけません。
他の委任事項を細かく記載していても、一切の件という言葉をつけてしまうと、代理人にほとんどの権限を与えてしまうことになるからです。
よって、不動産売却を委任する売主は、以下のような記載をしておき、変更が生じた場合に、代理人が独断で行動しないようにしておくべきです。
・上記条件に定めのない事項および上記条件の履行に変更が生じる場合は、その都度甲(本人)・乙(代理人)が協議して定める
住所を必ず記載する
委任状には、委任する側の売主、委任される側の代理人の氏名をそれぞれ記載しますが、このときは必ず住所もあわせて記載しなければいけません。
なぜなら、世の中には同姓同名の人物も存在するため、名前だけだと委任者、代理人が曖昧になってしまうからです。
住所を記載すれば、“〇〇県○○市〇〇に住んでいる〇〇(名前)”ということがわかるため、委任者も代理人も特定することが可能です。
委任者による不動産売却の注意点
委任状で不動産売却を行う場合、以下の点には注意してください。
- 委任状による不動産売却ができないケースについて
- 代理人との連絡手段について
委任状による不動産売却ができないケースについて
委任状による不動産売却は、不動産を所有する売主であれば誰でも実践できるわけではありませんので、注意しましょう。
具体的には、売主本人が認知症、精神障害などにより、十分な判断能力を有していない場合、委任状による不動産売却はできません。
なぜなら、委任者の判断能力に問題がある場合、委任状の内容に本人の意思が反映されているかわからないからです。
このようなケースでは、任意代理人ではなく、成年後見人などの法定代理人が代理を務めることになります。
代理人との連絡手段について
任意代理人に不動産売却を委任する場合は、必ずすぐに連絡が取れる手段を確保しておきましょう。
委任状での取り決めを超える範囲の事項が発生した場合、代理人はその都度、所有者である売主に確認を取らなければいけません。
このとき、なかなか代理人からの連絡に答えられないと、不動産売却はスムーズに進まなくなります。
もちろん、買主の印象も悪くなりますし、最悪の場合契約をキャンセルされることも考えられるため、注意してください。
今回の記事のポイントを整理!
今回の記事のポイントは以下になります。
- 委任状は、売主が不動産売却の手続きを第三者に委任する際に必要な文書
- 委任状による不動産売却では、代理人の権限を明確にしなければいけない
- 不動産売却の委任状において、認印や捨印は使用しない
- 判断能力が十分ではない売主は、委任状による不動産売却ができない
以上のポイントはしっかりと頭にインプットしておきましょう!